2023/04/10
東京国税局がNetflix日本法人に対して約12億円の申告漏れを指摘した旨の記事が、2022年3月21日付の読売新聞に掲載されました。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220320-OYT1T50279/
記事のタイトルは「ネトフリ日本法人が12億円申告漏れ…国税指摘、売り上げ大半がオランダ法人へ」という生々しいものでした。
このタイトルを見ると、Netflix日本法人が悪質な脱税をしていたような印象を持つ人も多いと思いますが、実態はどうだったのか。
海外法人を設立し利用している方も多いOWL Investmentsのサイト読者のお役にたてるよう、読み解いていきたいと思います。
記事によると、日本法人であるネットフリックス合同会社は、国内会員向けのコールセンター業務のほか、映画やアニメなどを手掛ける国内の制作会社との契約業務などを担当していたようです。
しかし、配信業務を行うオランダ法人から業務に見合った利益の分配を受けていないと東京国税局は判断したとのことです。
Netflixの190ヵ国以上の国々で動画配信をしているグローバル企業です。
具体的にどの国に法人を持っているかは、同社のウェブサイトの企業情報ページに記載されています。
https://help.netflix.com/legal/corpinfo
米国、オランダ、ブラジル、インド、日本、韓国、英国、シンガポール、フランス、スペイン、メキシコ、オーストラリア、ドイツ、イタリア、カナダという順に、15か国の法人が記載されています。
15か国の法人がどのような業務をしているのかは、同社のウェブサイトの企業情報ページには記載されていませんが、上記記事によると、日本法人の行っている業務は「国内会員向けのコールセンター業務のほか、映画やアニメなどを手掛ける国内の制作会社との契約業務」とのことです。
とすると、①Netflix日本法人が「国内会員向けのコールセンター業務のほか、映画やアニメなどを手掛ける国内の制作会社との契約業務」だけをグループ内で分担していたか、②この業務の正当な対価を得ていたか、この2点がポイントになりそうです。
さて、多国籍企業にも様々な業種があります。
例えば、石油会社の場合、サウジアラビア法人では原油採掘とタンカーへの積み込み、日本法人では原油精製というように、それぞれの法人が業務を分担して行うのは合理的です。
では、動画配信事業の場合はどうでしょう。
もちろん、動画制作はハリウッドにある米国法人が担当、顧客サービスは英語のできる人材を安い人件費で雇えるフィリピンの法人が担当、というように、各国法人ごとに分業することもできるかも知れません。
しかし、多くの業務については、各国法人の業務を峻別するのは難しいことが多いように思います。
Netflixの場合、米国で製作された動画はもちろん多いですが、韓国で製作された「イカゲーム」だったり、日本で製作された「全裸監督」などもある訳です。つまり、A国の法人が●●業務を行う、B国の法人が▲▲業務を行うというように峻別されているとは言いにくいように思います。
動画制作、著作権者との交渉業務、動画のライセンス保有、配信業務、新規会員獲得業務、顧客サービス業務など、すべてを日本法人、英国法事、米国法人といった各国法人がしていると言って良さそうです。
イメージ図としては、以下の感じです。
さらに踏み込んで言うならば、日本法人、英国法人、米国法人という区分にどれほど意味があるのか?という気もしています。
私自身の経験ですが、米系法律事務所で仕事をしていたとき、アジア太平洋地域の統括パートナーに、「これは東京の案件か?香港の案件か?」と聞くと、「東京も香港もない。One firmだ。」とよく言われたものです。
もっと卑近な例になりますが、OWL Investmentsは、日本法人、香港法人、シンガポール法人と3つの法人がありますが、実態としては、1つの会社がお客様にサービスを提供しているという意識です。「日本法人としての仕事」、「香港法人としての仕事」という意識は希薄です。
この辺り、多国籍企業といっても個々の会社によるとは思うのですが、グローバルな「One company」として、活動しているのではないかとも思います。
グローバルな「One company」が、日本人にも英国人にも米国人にもサービスを提供しているということで、図にすると下記のような感じです。
Netflixという1つのグローバル企業が1個の企業体として、日本や英国や米国の視聴者に対してサービスを提供しているというイメージです。
これが一番実態に近いと思います。
ところが、各国の税制の違いを考慮して、各国法人で分業しているという建前にしているのです。
そして、日本の国税局も、こうした分業まで否定してはいません。
ただ、日本への利益の配分が少なすぎるのでは?と述べているだけです。
この辺りが、グローバルに複数の法人を設立して節税していくにあたっての、方向性であり限界というところでしょう。
中小企業であっても、Netflixほどではないにしても、合理的な法人ストラクチャーを作ることはできます。
税金面も考慮して海外法人を設立していきたいという方、すでに海外法人を持っているが税金面を考慮して体制を整えていきたいという方、OWL Investmentsにご相談ください。