2023/06/19
東京国税局が9人のインフルエンサーに対し、合計3億円の申告漏れを指摘、8,500万円を追徴課税したとの記事が、2023年3月8日付の読売新聞に掲載されました。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230307-OYT1T50392/
3月8日付ということは、確定申告の提出期限直前という時期で、税務当局の「税金をごまかすなよ」という警告のような記事ですね。
記事によると、このインフルエンサー達は、企業から報酬をもらって、それら企業の商品やサービスを宣伝していた、いわゆる「企業案件」を扱っていたが、確定申告をしていなかったり、報酬額の一部しか確定申告をしていなかったりしていたそうです。
とりわけ「うち1人はSNSを通じて販売した情報商材の売り上げを海外のペーパーカンパニーの収入と装い、所得を隠していたという。」という部分が、海外法人を設立し利用している方も多い方は気になる部分でしょう。そこで、この部分に注目しながら、読み解いていきたいと思います。
海外のペーパーカンパニーを利用していたインフルエンサーが具体的にどういう仕組みを作っていたのか、記事には詳しく書かれていないのですが、おそらく以下のようなものだったと思われます。
①このインフルエンサーは、企業から商品・サービスを紹介して欲しいという依頼を受けて、その商品・サービスを紹介する、いわゆる「企業案件」を扱っていた。
②ところが、この「企業案件」を、インフルエンサー個人として受託すると個人として所得税がかかるし、法人で受託するとしても日本の法人税は高いことが気になっていた。
③そこで、日本よりも法人税の低い国・地域に法人を設立し、その法人で受託することにした。
つまり、日本で所得が生じると高税率の税金がかかるので、低税率国・地域に所得を移したわけです。
本件でインフルエンサーがどの国・地域にペーパーカンパニーを設立したかは、記事には書かれていませんでしたが、もし香港であったなら、法人税率は8.25%(所得が200万香港ドル=約3,000万円までの部分の税率)に抑えることができたということです。日本の法人税率は約30%ですから、3分の1未満です。
このように利益を海外法人に移すだけで節税できるのであれば、納税者としては非常にありがたい話です。反面、税務当局にとっては、税収が失われてしまうので、見過ごすわけにはいきません。
こうした税金対策に対する、税務当局にとっての対策が、いわゆる「タックスヘイブン対策税制」です。ざっくり言うと、タックスヘイブン対策税制は、このような仕組みになっています。
①外国関係会社(日本企業または日本居住者が支配する外国の法人)が、
②ペーパーカンパニー、事実上のキャッシュボックスなど、「特定の外国関係会社」の場合は、会社全体の所得を株主の所得に合算します(ただし、法人税率30%以上の場合は適用免除)。
③「特定の外国関係会社」でなくても、経済活動基準を満たさない場合は、「対象外国関係会社」として、会社全体の所得を株主の所得に合算します(ただし、法人税率20%以上の場合は適用免除)。
④外国子会社等が経済活動基準を全て満たす場合は「部分対象外国関係会社」といいます。部分対象外国関係会社の場合、その得た「受動的所得」は株主の所得に合算されます(ただし、法人税率20%以上の場合は適用免除)。
ここでいう「受動的所得」とは、配当等・利子等・有価証券の貸付対価・有価証券の譲渡損益・デリバティブ取引損益・外国為替差損益・その他の金融所得・保険所得・固定資産の貸付対価・無形資産等の使用料・無形資産等の譲渡損益等・実質的活動のない事業から得られる所得をいいます。
国税庁作成のチャートがわかりやすいので、参考にしてください(図表2)。
香港で実体のあるビジネスを運営するために香港法人を設立し、そのビジネスからあがった所得については、株主が日本居住者であったとしても、香港法人の所得は日本居住の株主の所得に合算されません。
一方、本件のインフルエンサーの事案では、居住者(インフルエンサー本人)が低税率国・地域に法人を設立したものの、オフィス、人員、事業の体制などがまったく存在しない「ペーパーカンパニー」だった可能性が高いと思われます。
そうすると、海外法人の所得がまるごと株主の所得に合算され、香港で支払った納税額との差額を、日本で納税しなくてはなりません。
タックスヘイブン対策税制がこのように適用され、株主が日本で課税されるのを防ぐには、ペーパーカンパニー等に該当しないよう、経済活動基準を満たすことが必要になります。
ただ、この辺りは非常に微妙な部分が多いため、より確実にするには、海外法人の実質的所有者が海外移住し、日本非居住になることだろうと考えられます。