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中米の小国エルサルバドルがビットコインを法定通貨と決定、吉と出るか凶とでるか?その影響は?

2021/07/05

2021年6月9日、中米エルサルバドルの国会が、ビットコインを法定通貨とする法律を可決成立しました。この法律成立から90日後の9月7日以降、エルサルバドルではビットコインをあらゆる支払に使えることになります。
今回は、この法定通貨化がエルサルバドルにもたらす影響、世界への影響について考えてみたいと思います。

●1.ビットコインを採用すると金融政策をとれなくなってしまう?
もし、日本が日本円を廃止してビットコインを法定通貨として採用すると金融政策をとれなくなってしまいます。
金融政策というのは、公定歩合(中央銀行が民間銀行に資金を貸すときの金利)を調整することで通貨の供給量をコントロールし、経済を安定的に発展させていこうとする政策のことです。
景気が悪く失業率が高くなってきたら、通貨供給量を増やして景気を刺激する一方、インフレが進行してきたら通貨供給量を絞りインフレを抑制する訳です。
しかし、エルサルバドルは、2001年に独自通貨を放棄し、米ドルを法定通貨として採用してきました。これにより、ビットコインを法定通貨として採用する前から、既に、金融政策をとれなくなっていたのです。
確かに、エルサルバドルは金融政策をとれないのですが、これは、いまビットコインを法定通貨として採用したことによる影響とは言えないでしょう。

●2.出稼ぎ労働者のエルサルバドルへの送金はどうなる?
エルサルバドルは国内の産業が未成熟であり、海外に出稼ぎで出た労働者による送金が重要な収入となっており、2019年のデータでは、GDPの2割にも達しています。
海外で仕事をしている出稼ぎ労働者はエルサルバドルに残っている家族に送金する訳ですが、エルサルバドルでは、銀行口座を持っている人が人口の2-3割しかいないため、銀行の海外送金を使うことができません。
そのため、銀行以外の送金業者を使わざるを得ず、送金金額の10%以上もの送金手数料を支払わなくてはならないという事情があるとのことです。
一方、ビットコインであれば、スマホがあれば送金・着金が可能なところ、人口の8割がスマホを持っているため、国内での送金・国際送金ともに、不自由なくできるようになりそうです。

●3.物価が安定しなくなる?
今後、エルサルバドル国内では、米ドルとビットコインの両方が法定通貨として使用され、商品の価格表示も、米ドル建て価格とビットコイン建て価格の二本立てで表示されることになるようです。
ところで、エルサルバドルは、小麦やトウモロコシのような食糧、原油などの燃料、自動車やコンピュータなどの工業製品を輸入に頼っている訳ですが、これらの貿易は基本的に米ドル建てで行われています。
ですから、エルサルバドル国内で小麦粉や自動車の価格表示がされるときも、米ドル建て価格は大きく変動することはないでしょう。
しかし、ビットコイン建て価格は、ビットコインー米ドルの相場に連動して、大きく変動することになります。ひょっとすると、この結果として、エルサルバドル国内でビットコインへの信頼が失われてしまうという可能性もありそうです。

●4.他国も追随するか?
エルサルバドルは、今回ビットコインを法定通貨として採用する前から、2001年から米ドルを法定通貨としていましたので、もともとインフレを抑制できています。
しかし、新興国や途上国の中には、自国通貨の信用が著しく低く、インフレで苦しんでいる国が数多くあります。たとえば、2020年のインフレの年率を見てみると、トルコは12%、エチオピアは20%、アルゼンチンは42%、ジンバブエは557%、ベネズエラはなんと2355%にも達しています。
ビットコインは非常に変動が激しく不安定と思われがちですが、こうした国が発行する自国通貨に比べれば、ビットコインの方が安定していて信用できるという側面があります。

●5.IMFはどう見ているか?
国際連合内の専門機関であるIMFは、各国の中央銀行が集まり、金融政策を通じて、国際貿易の推進、安定した成長、為替の安定を目指す、調整機関です。
確かに、これまでも、各国中央銀行が法定通貨を発行する原則から外れた例外はありました。米ドルを法定通貨にするエルサルバドルやエクアドルの例、複数の国で共同で通貨を発行するユーロなどです。しかし、これらの例外においても、IMFは、米ドルやユーロという通貨のコントロールは可能でした。
しかし、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にすると、IMFがコントロールできない通貨が出てきてしまう訳です。
2021年6月10日、IMFのジェリー・ライス報道官は、「ビットコインの法定通貨採用は、マクロ経済、金融、法律上の多くの問題を提起し、非常に慎重な分析を必要とする。われわれは動向を注視し、当局との協議を継続する」と言及しました。
私は、このコメントを読み、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にしたことは非常に不愉快だが、これを否定する明確な論理も無い、という苦しさを感じさせるコメントと見ました。
ビットコインを法定通貨にするのがエルサルバドル一国であれば、先進諸国がエルサルバドルに融資するとかして、ビットコイン法定通貨化を潰そうとするかも知れません。しかし、他国も追随してきたら、IMFも否定しようがなくなるだろう、そう感じています。

5つのポイントから、エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用したことで生じる今後の予測をしてみました。
エルサルバドルによるビットコインの法定通貨としての採用がどのような影響をもたらしていくか、今後に注目です。

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