2024/05/21
技術開発する場所として日本を選択せず、海外を選択する技術者が増えていますが、移住先としてマレーシアを選択する技術者もいます。その一人、飯塚友裕さんにお話を聞きました。
エンジニアが開発をするときに使う技術を開発してきた
OWL:これまでどのように仕事をしてきたのですか?
飯塚:2002年に早稲田大学理工学部を卒業して以来、フリーランス、あるいは自分の会社でエンジニアとして活動してきました。
OWL:どのような開発をしていたのですか?
飯塚:データベースエンジンを開発したり、開発言語を開発したりしました。
飯塚:データベースエンジンと言っても分かりにくいですかね、、、、データベース管理システム(DBMS)がデータベースからデータを作成、読み取り、更新、削除するために使用する基盤となるソフトウェア部品のことです。この業界で一番有名な会社は、米国のOracle(オラクル)です。
飯塚:開発言語というのは、プログラミングをするための言語で、JavaとかRubyとか知られていますよね。多くの技術者は開発言語を使って開発していきますが、私は開発言語を開発しています。開発言語から、VM、IDEやデバッガーまで一人で作る人は世界で100人もいないと思います。
(飯塚友裕氏)
マレーシアで、ブロックチェーン時代のOracleを目指したい
OWL:マレーシアに移住されますが、マレーシアで取り組むのは何ですか?
飯塚:これまでのデータベースエンジンは中央集権的だった訳ですが、ブロックチェーン時代になって、非中央集権的なデータベースエンジンも技術的に可能になりました。ですから、ブロックチェーンを活かした非中央集権的なデータベースエンジンを作りたいと思っています。
OWL:具体的には何を作るのですか?
飯塚:コインを開発し、コインを利用してこのサービスを使える仕組みを作ります。特定の個人・会社が発行体になるのではなく、ネットワークが発行する非中央集権的な仕組みで進めていきます。
飯塚:一方、企業がサービスを利用する場合、完全に非中央集権的なサービスを利用しにくいことが多いです。そこで、少し中央集権的の度合いを高めたサービスも作り、主に企業向けのサービスを提供します。
飯塚:この両者により、非中央集権を貫いたコインとデータベースエンジン、少し中央集権的なデータベースエンジン、この2本立てのサービスを提供していきます。
(飯塚氏の開発内容を示したサイトより)
日本ではコインの発行は無理
OWL:マレーシアでこのサービスを展開されるのですが、どうして日本では無理と思ったのですか?やはり、暗号資産(仮想通貨)に関する規制が影響していますか?
飯塚:日本の場合、非中央集権のコインは認めず、すべて政府の監視下に置かれた中央集権のコインのみにしていきたいという圧力が強いです。それは、規制面を見ているとよくわかります。明示的な規制だけではなく、暗黙の業界内での村社会的ルール(同調圧力)などもあり、あたかも非中央集権のコインはマネーロンダリングのツールであるかのような論調も結構あります。
OWL:非中央集権のコインは、日本の取引所で取り扱ってもらえないということでしょうか?
飯塚:はい、国内取引所で取引所が扱って良いコインのホワイトリストを政府当局が管理しているというのもおかしいと思います。日本国内では、プライバシー保護の機能があるコインは、このホワイトリストに入れてもらえず、取引所から規制によってデリストされてしまいました。 ZEC、DASHなどがそうです。 ですが、広い世界で通貨に対するプライバシーは非常に需要があり、国民が、言論弾圧など、政府から身を守るために必要な権利と考える人が世界の暗号通貨ファンには非常に多いです。
OWL:税金についてはいかがでしょうか?
飯塚:オルトコイン同士の交換も課税されたり、少額の決済も課税されます。これでは、日本国内で非中央集権の暗号通貨は普及しません。
マレーシアやシンガポールでは、コインの売り買いに課税がされないので、町中にふつうにあるATMからお金と同様に暗号通貨デビットカードで現金を引き出したり決済したりできます。さらに、取引所から自分のウォレットへの出金手数料の高さも異常です。
(クアラルンプール市内にある暗号資産を取り扱うATM、飯塚氏撮影)
マレーシアであればコインの発行は可能
OWL:マレーシアであればコインの発行も可能でしょうか?
飯塚:マレーシアには、暗号資産に関する日本のような規制はないので、コインの発行もできます。私自身が日本居住者を外れ、マレーシア居住者になってから、発行する予定です。
飯塚:さらに、マレーシア国内で特定の相手に対して相対でコインを売ると、マレーシアの国内法が適用されて禁止されてしまう恐れもあるので、マレーシア国内で特定の相手に対して相対でコインを売ることはしません。マレーシア国外の人に対して取引所を通じて売ります。
OWL:マレーシアの税金面はどうですか?
飯塚:マレーシアには暗号資産のキャピタルゲイン・インカムゲインについての課税が無いので、ブロックチェーン企業にはとても向いています。
OWL:アンチマネーロンダリング規制との関係ではどうでしょうか?
飯塚:犯罪収益の洗浄防止というアンチマネーロンダリング規制の趣旨は分かりますが、適用範囲が当初の趣旨を超え、米国が自国の都合よいように拡大解釈している気がします。マレーシアは、イスラム教国でイスラム金融のハブを目指していますし、米国ベッタリではありません。そうした点で、アンチマネーロンダリング規制により過度の規制を受ける恐れは低いと思っています。
(クアラルンプール市内には、パレスチナ国旗が掲げられている店も多く、米国と一線を画していることを感じることも多い。インタビュアー撮影)
マレーシアは同調圧力が低く、技術開発にも向いている
OWL:マレーシアは暮らす場所としてはどうでしょうか?
飯塚:一年中暖かくて気候が良いですし、シンガポールのように狭苦しい国とは違って全体的に広々としていますし、コンドミニアムもセキュリティが良いと思います。こうした点で、非常に住みやすいだろうと思っています。
OWL:マレーシアのカルチャーはどうでしょうか?
飯塚:マレーシアは多文化国家だからでしょうか、日本と比べて同調圧力が高くないと思います。他人は他人という感じです。
OWL:同調圧力の低さはビジネスにも好影響ですか?
飯塚:そうですね。日本で開発をしていると、権威に評価されようとするなど、周囲のムードに気を使うことが多いです。でも、良いプロダクトを作れば結果が付いてくるのです。そういう点で、同調圧力の低いマレーシアの方がプロダクトの開発に向いていると思います。
OWL:マレーシア発の世界的なプロダクトを期待しています。
(マレーシアは他民族国家で中華系も多い。インタビュアーがマラッカ市内で撮影)