2016/01/03
日本を代表するギャンブル的要素の強い遊戯であるパチンコ、その売上は減少を続けています。売上高(貸玉料)は2005年の34.9兆円をピークから2014年には24.5兆円に、参加人口は1995年の2900万人をピークに2014年には1150万人にと、激減しています(公益財団法人日本生産性本部『レジャー白書2015』)。
しかし、ギャンブル性ある遊戯を求める人が無くなることはありません。パチンコ人口・売上高の減少は、若い人々を中心に、パチンコではなく別のものにギャンブル性を求めているということを意味しているのでしょう。
その一つとして注目されているのがオンラインカジノであり、オンラインカジノをビジネスとして運営したいという問い合わせを受けることも少なくありません。
カジノは、日本では賭博罪(刑法185条)として禁止されています。しかし、シンガポール、韓国、マカオなどのように、限定的な条件の下でカジノが認められている国・地域もあります。さらに、フィリピン、マルタなどのように、オンラインカジノが認められている国・地域もあります。
当然ながら、インターネットは国境を飛び越えますので、フィリピンやマルタでライセンスをとったオンラインカジノを日本国内でプレーすることも、物理的に可能です。
そして、それらの国でライセンスを取ったオンラインカジノの中には、日本語サイトが完全に整備されているものもあります。
ですから、日本居住の日本人向けにオンラインカジノをビジネスとして行うことも、物理的に不可能とは言えないでしょう。
フィリピンやマルタでオンラインカジノのライセンスを取って、その国内でオンラインカジノ業を営むのであれば、違法にはなりません。
問題は、①それらのオンラインカジノの利用者は違法にならないのか、②それらの国でオンラインカジノのライセンスを取り、日本在住者に向けたビジネスを行うことが違法ではないかという点です。
この問題点につき、よく取り上げられるのは、2013年に衆議院でされた質問・回答です。
質問
賭博罪は、「必要的共犯」であり、賭博開帳者と共に処罰される(刑法第百八十六条第二項参照)ことが前提であり、賭博開帳者 が国外犯として処罰されないのであれば、その対抗犯である賭博罪は成立しないとして、「インターネット賭博カフェと異なり、自宅から海外で開設されたイン ターネットのオンラインカジノにアクセスして、賭博をするのは違法ではない」と説明をして、個人を相手として賭博をさせている業者もいる。
一.日本国内から、インターネットを通じて、海外で開設されたインターネットのオンラインカジノに参加したり、インターネットで中継されている海外のカジノに参加することは、国内のインターネットカジノ店において参加する場合だけでなく、国内の自宅からインターネットを通じて参加する場合であっても、刑法第百八十五条の賭博罪に該当するという理解でよいか。
二.上記一の「日本に所在する者」にサービスを提供した者には、国内犯が適用されるか。すなわち、海外にサーバを置いて賭博サービスを提供する業者にも、賭博開帳罪(同法第百八十六条第二項)が成立し得るという理解でよいか。
三.賭博罪の成立要件とされる必要的共犯に関して、共犯者の片方(賭博に参加する者)が国内、もう片方(賭博開帳者)が国外に所在する場合に共犯関係は成立し得るのか。片方を罰する事が出来ない(非可罰的な)状態にあっても、両者による共犯関係を立証することが出来ればもう片方の者の罪は成立し得るのか。
四.日本国内から、インターネットを通じて、代行業者を通じて海外の宝くじを購入する行為は、刑法第百八十七条第三項の「富くじを授受」する行為に該当するという理解でよいか。
五.国内からインターネットを通じて、オンラインカジノに参加する行為や海外の宝くじを購入する行為が賭博罪や富くじ罪に該当し、禁止されていることを国民に周知するための政府広報をすべきではないか。
回答
一から三までについて
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ、また、賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがあるものと考えられる。
四について
犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、富くじの授受行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法第百八十七条第三項の富くじ授受罪が成立することがあるものと考えられる。
五について
御指摘のような観点からの広報については、今後の社会情勢等を踏まえ、慎重に検討してまいりたい。
以下のような説明で「違法ではない」と主張するインターネット上の勧誘を見かけることがあります。
1. 賭博罪は、相手方があって初めて可能となる犯罪(必要的共犯、対向犯)である。
2. 賭博罪については,外国で行われた行為を処罰する規定(国外犯処罰規定)はない。
3. サーバーは外国で設置・管理されている以上,業者(胴元)に日本の刑法を適用して処罰することができない。
4. 賭博罪は必要的共犯(対向犯)である以上,業者(胴元)を処罰できない場合には,日本国内の利用者を処罰することもできない。
上記の説明は一見もっともらしい構成となっており、瞬間的には説得されてしまいそうです。
しかし、必要的共犯(対向犯)の場合、相手方の「行為」が必要ではあるものの、相手方の行為が処罰される必要までは無いと考えられています。つまり、相手方(海外のオンラインカジノ業者)が処罰されない場合でも、日本国内でオンラインカジノのプレーをした人は違法と考えられそうです。
オンラインカジノを提供する側にとっては、ここが悩ましいところでしょう。
外国で行われた行為を処罰する規定(国外犯処罰規定)はない以上、オンラインカジノを提供する行為の中に、日本国内の行為が無ければ違法とはならない一方、日本国内の行為があれば違法となります。
答弁の中の「賭博場開張行為の一部が日本国内において行われた場合、同法第百八十六条第二項の賭博開張図利罪が成立することがある」というのも、同様の考えでしょう。
そうだとすると、核心は、日本在住者向けにオンラインカジノを提供する行為が「賭博場開張行為の一部が日本国内において行われたか否かです。
この点について明確に言及された文献を見たことはありません。
ただ、他の許認可ビジネスにおいても、日本国内では違法な行為を海外からメール・電話・インターネット経由で行うことが違法か?というテーマはありますので、そうした隣接論点からの類推は可能だと思います。
ただ、これは、類推による私論ですので、問い合わせを受けた場合に限り、相談に応じさせていただくことにしたいと思います。
問い合わせ先(OWL Investments):info@owl-investments.com
これまでも、日本国内の店舗で海外のオンラインカジノに接続する形でサービス提供していた業者が摘発されるケースはありました。しかし、一般ユーザーが海外のオンラインカジノを利用して家宅捜索・逮捕をされるケースは無かったと思われます。
これまでも、OWL Investmentsでは、日本国内でオンラインカジノのプレーをした人は違法と考えられる旨を指摘してきましたが、海外のオンラインカジノを日本国内で利用する一般ユーザーが家宅捜索・逮捕されるに至った以上、日本国内で海外のオンラインカジノを利用することの違法性が一層明らかになったと言えます。
そうしますと、日本在住者を主要ターゲットとするオンラインカジノは、違法性の問題もさりながら、ビジネスとしても成り立ちにくくなる可能性が高いと言えそうです。
つい、日本ではできない行為であっても、海外を利用することで何でもできてしまうような気がするかも知れません。しかし、海外を利用しても違法な行為は当然あります。OWL Investmentsでは、海外でビジネスを行う方々に対し、法令遵守を心がけるよう喚起していきたいと思います。