2015/07/02
日本で財閥系企業というと、三菱XX、三井XX、住友XXというように企業名に財閥名が入っていることが多く、会社名を聞くだけで分かりやすいですね。
一方、香港の財閥系企業の場合、どうでしょうか?
たとえば、流通業界を見ると、香港のスーパーマーケットの二強といえば、WellcomeとPARKnSHOPですし、ドラッグストアの二強といえば、WatsonsとManningsです。交通について見ると、香港を代表する航空会社といえばキャセイパシフィック航空ですし、三大バス会社といえば、City bus、First bus、Kowloon Busです。
これらは、日本人は会社名を聞くだけでは気づかないかも知れないですけれども、全て巨大コングロマリット(財閥)の傘下の企業なのです。
三井といえば江戸時代に三井高利氏が越後屋を開いて正札商売を始めたということ、三菱といえば明治時代に政商としてスタートして丸の内の土地を政府から安く譲り受けたこと。こうしたことは、多くの日本人が知っているでしょう。
だから、取引先候補や提携の候補が「うちは有名財閥のグループ企業で、、」などと誇張した宣伝を言われてもすぐ見破れますし、そもそも、そのようなすぐにばれる嘘をつく人はいないでしょう。
しかし、海外に出ると、状況が変わってしまいます。
その国の企業グループの状況をあまり知らないために、紹介者の誇張表現をうっかり信じてしまう日本の経営者も少なくないように思います。
ですから、少なくともその国の主要財閥やその源流くらいは知っておくことは、本人の誇張や紹介者のリップサービスに惑わされないためには重要ではないかと思います。
香港の財閥は大きく、①英国系、②華人(香港人)系、③中華人民共和国系に分けると理解しやすいでしょう。
①英国系には、ジャ―ディン・マセソン、スワイヤーグループなどがあります。
②華人(香港人)系には、長江グループ、新鴻基(Sun Hung Kai)、恒基地産(Henderson Land)、新世界、信和などがあります。
③中華人民共和国系には、華潤(China Resources)、招商局、CITICなどがあります。
英国系の財閥には、イギリスのアジア侵略の利権に食い込んで富を獲得し、その富を元手に発展を続けているものが多いと言えます。
サッスーン家は、メソポタミア地方のユダヤ系に源流を持ち、19世紀前半、東インド会社からインド産のアヘンの専売権を得て中国への貿易により巨万の富を築きました。
ジャーディンマセソンは、アヘンの密売や紅茶の貿易で富を築き、アヘン戦争により英国が香港を植民地化した直後の1941年、香港に拠点を移しました。その日本における代理店であったグラバー商会の名前は日本史の授業で聞き覚えがあるでしょう。冒頭に挙げたスーパーマーケットのWellcomeやドラッグストアのMannings、マンダリンオリエンタルホテルは、ジャーディンマセソン財閥に属します。
そして、サッスーン家、ジャーディンマセソンらが共同で設立したのが香港上海銀行(HSBC)です。1960年代、(香港証券取引所の株価指数で知られる)ハンセン銀行が経営困難に陥った時には同行を救済する等、中央銀行の無い香港において事実上の中央銀行的な立場で君臨しています。
華人(香港人)系の財閥は、第二次世界大戦後に、中国本土の共産化を嫌って香港に渡ってきた人が、一代で財を成したものが多いと言えます。
潮州から香港に渡り、プラスチック製の造花製造で作った元手をもとに、不動産業(長江実業有限公司)で巨万の富を築き、2013年フォーブスランキングで世界第8位の富豪にランキングされた李嘉誠氏は、その代表的存在です。
長江実業は、1979年に英国系財閥のハチソンワンポア(和記黄埔)を傘下に収めました。冒頭に挙げた、スーパーマーケットのPARKnSHOPやドラッグストアのWatsonsはグループ企業です。
中華人民共和国系の財閥は、中国政府・中国共産党との密接なつながりに特徴があると言えます。
その代表格の一つである華潤(China Resources)は、1938年に香港で「聯和行」の名で設立されました。当時、中国大陸では国民党と共産党が内戦状態にありましたが、共産党の資金集めの任務を負っていたと言われています。
中国大陸での内戦がほぼ終結した1948年、「華潤」と改名されました。「華」は「中華」の「華」に由来しますが、「潤」は、毛沢東の字(あざな)である「潤之」に由来します。その後、西側世界と交流が途絶えた中華人民共和国の商品を香港経由で輸出する窓口となりました。
現在、華潤グループはビール、小売り、飲料、食品の消費財事業を主力とし、「雪花」ブランドのビールは中国一の売上を誇っています。
財閥の歴史は、日本史や世界史で聞いた名前が数多く登場し面白いうえ、前提として知っておくと、香港の経済ニュースをずっと理解しやすくなりますよ。