2016/04/14
国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の2016年4月3日発表により、「パナマ文書」と言われる世界各国の政治家等の機密情報が流出し、彼らが財産隠しをしていたことが明らかになりつつあります。
前回の記事で、パナマ文書を作成したモサック・フォンセカ法律事務所などの「オフショア法律事務所」がどういう法律事務所なのかを書きました。
今回は、①財産隠しをどのような方法でやっている(と思われる)か、②財産隠しは違法なのか、③日本政府は財産隠しをどう取り締まろうとしているのかを検討してみましょう。
オフショアに資産を隠す方法としては、自分を隠すレベルに応じて幾つかの段階があるでしょう。
第一段階としては、オフショアの銀行に自分(個人)名義の銀行口座を開き、その銀行口座に金を入れることが考えられます。オフショア地域の銀行は、秘匿性が高いことが多いので、これでもある程度は財産隠しの効果があるでしょう。しかし、近年は税務当局間の情報交換がどんどん進んできていますし、本気で隠そうとする人はこの程度の方法で満足しないでしょう。
第二段階としては、オフショア地域に自分(個人)を株主とする法人を設立し、そのオフショア法人名義の口座を開設、その銀行口座に金を入れることが考えられます。法人の株主が登記などで開示されないオフショア地域の場合(注:香港法人の株主は登記で一般に開示されます)、より財産隠しの効果が高まることになります。
第三段階としては、オフショア地域に別人を形式的株主(ノミニー株主)とする法人を設立し、当該オフショア法人名義で銀行口座を開設、実質的な金の出し手はサイナー(銀行の金銭の管理権限者)としてのみ名前を出すにとどめることが考えられます。法人の株主として名前が出ませんので、より財産隠しの効果が高まることになります。
もちろん、この第三段階の方法でも、実質的な金の出し手の名前は銀行には知られてしまいます。誰が実質的な金の出し手かを、銀行にさえも知られない段階まで徹底することもできるでしょう。
挑発的な物言いかも知れませんが、財産隠しはいったい何が問題なのでしょう?
政治家や役人の場合であれば、権力を利用して賄賂を受け取っている人や、政治家・役人の立場で得た情報や人脈をもとに蓄財している人もいるでしょう。
収賄は違法ですし、政治家・役人として得た情報や人脈をもとに蓄財する行為も批難される行為でしょう。
ですから、こうした政治家は、自分の財産が見つからないように財産隠しをしている訳です。
財産隠し自体は確かに違法ではないかもしれません。その背後にある収賄や不正蓄財こそが問題と言えるでしょう。
収賄等が問題になる政治家・役人以外の一般人の場合、財産隠しは何が問題になるのでしょう?
税金は、基本的に、収入(フロー)に課されますので、収入(フロー)を隠す行為は、脱税にあたり違法です。
でも、資産(ストック)は、基本的に課税されず、資産がまるごと課税の対象になるのは、相続・贈与の時点になってからです。
だから、財産隠しは、それ自体では犯罪の「既遂犯」ではなく、相続税・贈与税の脱税という犯罪の予備的行為でしかない訳です。
税務署の立場からすれば、物凄やりにくいでしょう。財産隠しをしている人は、相続税・贈与税の脱税を狙っているのは確実なのに、財産隠しの時点では摘発できない訳ですから。
しかし、そんな日本の税法も変わり、財産隠し自体が違法となるように、法改正がされつつあります。
一つ目の制度は、財産債務調書制度です。これは、①「所得が2,000万円超」(所得要件)②「その年の12月31日時点で有する(1)財産の価額の合計額が3億円以上、又は(2)国外転出課税の対象資産(有価証券等)の価額の合計額が1億円以上」(資産要件)の人に提出義務が課された調書です。
そして、財産債務調書を提出していない場合・記載すべき財産を記載していない場合、過少申告加算税等が5%加重される、という制裁も課されるのです。
もう一つの制度は、国外財産調書制度です。国外財産調書制度とは、日本の居住者が12月31日時点で合計5000万円超の国外財産を保有している場合には、国外財産調書(保有する国外資産の内訳明細書)を作成して、翌年3月15日までに所轄の税務署長に提出しなければならないという制度です。従前は罰則がありませんでしたが、2014年12月31日時点での国外財産の調書提出分(2015年3月15日まで)からは、不提出・虚偽については刑罰の適用も開始されています。
主にこの2つの制度が作られたことで、財産隠しは、「違法ではない行為」ではなく、「違法行為」にあたる場合が非常に増えてきた、と言えそうです。
これまでは、罰則がなかったのを良いことに財産隠しをしてきたものの、罰則規定も作られてしまい、どうやって着地させていったら良いだろうか、、、そう悩んでいる人も少なくないかも知れません。
OWL Investmentsは、違法行為にあたらない形でのオフショア法人の利用を応援しています。
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