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海外法人を活用した脱税スキームを提供したとされる元税理士の容疑者を大阪地検特捜部が逮捕、どこが問題だったのか?

2023/08/13

海外法人に資金を循環させる手口で不動産会社の元社長らが脱税したとされる事件で、大阪地検特捜部は、脱税スキームを提供したとされる元税理士の容疑者を逮捕したとの記事が、2023年2月12日付の朝日新聞に掲載されました。 https://www.asahi.com/articles/ASR2C6WC6R2CPTIL009.html

この事件をその後も追っていたところ、3月3日、大阪地方検察庁特捜部が同被告を起訴しました。 https://www.asahi.com/articles/ASR33674FR33PTIL01C.html

さらに、6月15日、大阪地方裁判所で初公判があり、元税理士の被告は「間違いありません。」と容疑を認めています。 https://www.asahi.com/articles/ASR6F663ZR6FPTIL018.html

さて、どういう事案だったかというと、同被告は、不動産会社の元社長に脱税の手口を指南し、2016(平成28)年までの3年間にシンガポールなどの海外の法人に架空の手数料などを支払ったように装って所得を少なく見せかけたとのことです。

海外法人がらみで逮捕されたという事件が起こると、海外法人を使うこと自体が脱税・犯罪のように勘違いする人もいらっしゃるかも知れませんが、もちろん、そんなことはありません。 この事案が、あきらかな脱税・犯罪だったにすぎません。 そこで、具体的にどの点が問題だったのかを検討していきたいと思います。

(シンガポールを代表する「マリーナベイサンズ」、日の出の瞬間)

海外法人に対する架空の経費支払という単純かつ悪質な事案だった模様

この事件に関する新聞記事を複数見たところ、この元税理士がアドバイスして行われた本件の概要は、以下のようなものだったと思われます。

① この不動産会社(日本法人)の利益を少なく見せるため、シンガポール法人に対して、研修費・調査費を支払った。

② この研修費・調査費名目で支払われた大半(約8割)が、このシンガポール法人から別のペーパーカンパニーに送金されていた。

③ この不動産会社(日本法人)の社長は、ペーパーカンパニー内に入った資金を出金して日本国内に持ち帰っていた。

つまり、海外法人を使い、国際的で洗練された仕掛けのように見せつつも、単なる架空経費の脱税事案だったということです。

こうした事件が明るみに出た背景には、OECD主導の情報交換制度があると思われる

この事案が発覚した背景には、何があるのでしょうか?

まず、各国税務当局間の情報交換制度が機能してきたという背景があると思われます。

以前から租税条約による情報交換制度がありましたが、さらに、OECDが主導して日本やシンガポールを含む各国が加入した制度も開始されました。

これは、各国の金融機関にある非居住者の口座の情報をその居住地国の税務当局に送付するというものです。

つまり、シンガポールの銀行に日本居住者(シンガポール非居住者)が口座を作った場合、その口座情報が日本の税務当局に送られるというものです。

この情報収集については、新聞などのマスメディアで取り上げられることもありますので、ご存じの方も多いと思います。

例えば、下記の日本経済新聞(2023年1月31日)には、「国税庁は31日、経済協力開発機構(OECD)が策定した「共通報告基準(CRS)」による各国との情報交換制度で、2022年6月までの1年間に、国内の個人と法人が世界94カ国・地域の金融機関に保有する口座情報約250万件を入手したと発表した。口座残高の総額は約14兆円。情報は国際的な脱税事案の解明や租税回避の把握などに活用される。」とあります。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF3194P0R30C23A1000000/

もう一つ、明るみに出た背景として考えられるのが、国税庁の長期出張者による情報収集

もう一つ、本件が発覚した背景として考えられるのが、国税庁の長期出張者による調査です。

国税庁の長期出張者というのは、派遣先国の税制・税務行政などに関する情報の収集を行うとともに、相手国の税務当局との連携が必要となる事項につき重要なパイプ役としての役割を果たす役目であると、国税庁のウェブサイトには記載されています。

https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2008/04_3.htm

さらに、これらの業務に加え、しかし、実際には、海外在住日本人や日本人・日本企業が実質的オーナーである会社についての情報収集をしたりしている、と言われています。

本件の場合で言えば、この不動産会社(日本法人)の取引先とされたシンガポール法人の登記を確認したうえで、登記住所まで行き、その場所で実際にビジネスが行われているかどうかを、長期出張者が調査した可能性は高いでしょう。

そして、長期出張者が登記住所に赴き調査したならば、そのシンガポール法人が実体を持たないペーパーカンパニーである、同シンガポール法人への支払いは架空経費であると報告したのではないかと思われます。

海外法人を利用していこうというのは良いのですが、このような安易な脱税・違法行為はしてはいけないと肝に銘じておくべき事案でした。

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