2016/07/13
「日本の高い税金を払いたくない。」そう考えて日本居住者から離脱しようという人も多いと思います。
でも、「居住者」か否かの基準は何でしょうか?「居住者」(=国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人)か否かが訴訟で争われた有名な事例として、ユニマット事件(東京高裁平成20年2月28日)がありますので、この事件を振り返ってみましょう。
A氏(元弁護士、証券取引法違反により弁護士資格喪失)は、日本で会社を設立して経営コンサルタント業などに従事していました。しかし、この経営コンサルタント業の業績は思わしくありませんでした。
そこで、A氏は、2000年12月頃にシンガポールに渡り、ヘッジファンド運用会社(シンガポール法人)の特別顧問として法的助言を行うようになり、また同社から投資に関するアドバイスを得て株式取引業務を開始しました。
2001年1月12日、A氏は、香港でユニマットライフ社の株式を19億円で譲渡しました。日本の税法では、非居住者による外国資産の譲渡収入は課税対象にならないため、当時シンガポールに住んでいたA氏は譲渡所得の申告をしませんでした。
しかし、国税当局は「譲渡時の住所は国内にあった」とし、所得税3億6,000万円、無申告加算税5,400万円を追徴しました。
A氏はこれを不服とし、課税処分の取り消しを求める訴訟を提起しました。
最大の争点は、A氏が株式譲渡時に日本国内に「住所」を有していたか否かでした。
この点につき、東京地方裁判所・東京高等裁判所とも、日本に住所が無かったと判断しました。
判決は、「住所」の判断にあたって、「住居、職業、国内における親族の有無、資産の所在など客観的事実に基づき総合的に判断するのが相当」としました。
この判決は、(1) 租税回避の意図があったか否かなどの主観的意図は考慮しない、(2) 「住所」の判断については、何日以上日本に滞在していたら日本国内に住所アリと判断するというような明確な基準は無い、(3) 「住所」の判断については、住居、職業、国内における親族の有無、資産の所在などを総合的に判断するしかないことを示したと言えるでしょう。
①住居は?
A氏は、日本滞在中ホテル等を利用しており、生活用品を管理して寝泊りするための特定の場所がなく、日本には生活の「拠点」といえる場所すら存在しない状況でした。したがって、日本国内に「住居」は無かったと判断されました。
②職業は?
A氏が日本で営んでいた経営コンサルティング業は不調でした。A氏の収入は、シンガポールのヘッジファンド運用会社から適時に助言を受け株式取引から得る収益に大きく依存していましたし、このビジネスで3人のアシスタントを使っていました。
③親族は?
A氏は、日本に親族こそいるものの,生計を一にしてはいませんでした。
④資産は?
A氏の国内財産は債務超過の会社に対する持分や債権,さらには抵当権の都合から原告名義にしているだけの土地くらいしかありませんでした。
訴訟ではA氏が国税当局に勝訴しましたが、結構微妙な判断だったと思います。
この訴訟の中では大きな論点にはならなかったようですが、A氏は1年の約半分の期間を日本で過ごしていましたし、日本法人の取締役を務めていましたし、A氏の親族が同社の取締役や監査役に就任しているという事情もありました。
居住者か否かの判断については判決がいくつも出ています。争いになったポイントは事件によって違いますので、表現は異なりますが、気を付けるべき点は明らかになってきています。ただ、家族・親族の御事情、日本で携わっていらっしゃる職業、日本にお持ちの資産等を踏まえないと答えは出せません。
OWL Investmentsでは、お客様、普段相談されている税理士の方と一緒に話し合い、日本非居住となるための適切なプランニングをお手伝いいたします。
問い合わせ用メールアドレス:info@owl-investments.com
香港居住で贈与税を回避!武富士元会長長男への贈与税課税事件とは何だったのか?
OECD自動的情報交換制度で、海外の口座情報は税務署に筒抜け!?