2015/07/02
日本においては「会社」とは事業を運営する「組織」と考える傾向が強く、「会社設立」はたいへんなことである、あるいは、非常に重大な事と考える傾向が強い。私も友人に香港に会社を持っている、と言うと大概「すごいね~」と何かすごいことをしたかのように言われる。
一方、香港では「会社」を事業や投資における一つの「ツール」として考える傾向が強く、個人で何社も会社を保有しているということも少なくない。
この違いがはっきりでてくるのが、「ペーパー会社」という言葉だろう。日本では「ペーパー会社」というと、脱税などの目的をもった悪い意味を持つが、香港では「ペーパー会社」がある意味当たり前の世界となっている。
会社設立を専門に扱う地元の業者に行くと、過去毎月100社近い会社を先に設立しておき、リストを作って、「どの会社が欲しいですか?」と言われるくらいである。
(ちなみに、会社名には縁起の良い「Rich(金持ち)」「Prosperity(繁栄)」といったキーワードが散りばめられていて、日本的には恥ずかしくて使えない名前が多い。)
では、香港には法人数がどれくらいあるのだろうか?日本の法務省に相当する、香港のカンパニーレジストリー(Companies Registry)の統計を見ると以下のようになっている。
香港
2013年末の会社数 1,162,931社
2013年の新規会社設立 174,031社
(出所:Hong Kong Companies Registry)
注:香港法人のみ、Public Company及びPrivate Companyの合計。
日本
2013年末の会社の登記件数 1,139,941社
2013年の会社の設立登記件数 96,659社
(出所:法務省統計)
注:株式会社、特例有限会社、合名会社、合資会社、合同会社、外国会社全ての「本店」の登記会社件数
会社数では日本とほぼ同数、日本の新規の会社設立数は日本の倍近くとなっている。香港のGDP(2,740億米ドル)が日本のGDP(4.92兆ドル)の1/18であることを考えると、香港の法人の数が異様に大きいということがわかるだろう。
では、香港では「会社」はどのように利用されているのだろうか?
2014年の9月に上場時の時価総額2,300億米ドル(25兆円)の鳴り物入りでNYの市場に上場した、中国の電子商取引企業アリババは、2012年まで実は香港市場で上場をしていたのだが、2007年の香港上場時の目論見書に、グループの関係会社構造が公開されている。
出所:Alibaba.com Limited 香港上場目論見書(2007年10月)
アリババは中国の企業なのに、「Cayman」や「BVI」という文字が並んでいる。「Cayman」というのは中南米のケイマン諸島、「BVI」というのは英領バージン諸島のことを言う。
香港や中国で金融や投資のビジネスに携わっている人で、ケイマン、英領バージン諸島という名前を聞いたことがないとすれば、その人はもぐりである、といっても過言でないくらい、中国や香港では一般的である。
このケイマン、英領バージン諸島の会社は投資家の資金を集めたりする一つの受け皿としてよく使われている。
これらの受け皿の子会社として香港法人が設立され、その上で中国に孫会社を作る、ということが一般的となっている。
中国政府は時刻の領土でありながら「特別行政区」として区別される香港やマカオに対して投資の面でも多くの優遇策を打ち出しており、投資家や外国企業にとって香港の会社経由で中国本土への投資を行う、ということが一般的である。
この場合、香港の会社には従業員もオフィスもない(あるいは形だけ)ことも往々にしてある。要は「ペーパー会社」である。
香港の会社はまさに、このように中国本土への投資の中継地点となっていることが多いのである。
日本では悪い印象でしかない「ペーパー会社」ではあるが、香港や中国でビジネスを行っていく上ではこのような「ペーパー会社」をうまく使っていくことが非常に重要である。
強いて言えば、この「ペーパー会社」抜きで香港や中国での金融を語ることができない、ということである。
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