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ビットコインを法定通貨化したエルサルバドル、これを止めさせたいIMF、双方の主張をナイーブに信じて良いか否か?

2022/12/16

2021年6月9日、中米エルサルバドルでビットコインを法定通貨とする法律が可決・成立、9月7日以降、エルサルバドルではビットコインをあらゆる支払いに使えるようになりました。

しかし、法案成立から8か月後の2022年2月9日、格付機関フィッチ・レーティングスは、エルサルバドルの格付けを投機的水準にあるB-からCCCへ引き下げることを発表しました。また、ビットコイン価格は低迷しており、エルサルバドルはビットコイン購入による含み損を抱えているとも言われています。

こうした背景から、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨化は失敗だったという論調の記事を見ることも少なくありません。

しかし、ビットコインの法定通貨化は1年程度で成功失敗の判断をするような短いスパンの問題とは思えないのです。
エルサルバドルがビットコインを法定通貨としてから約1年3か月が経過したいま、ビットコイン法定通貨化の意義を考え直してみようと思います。

エルサルバドルでのビットコインの法定通貨化、その大義名分は何だったか?

エルサルバドルは、ビットコインという得体の知れないモノを法定通貨にしてしまうという大実験を行った訳ですが、これだけの大実験を行うには、皆を「なるほど」と思わせるような大義名分が必要です。

その大義名分は、海外出稼ぎエルサルバドル人の国際送金でしょう。

エルサルバドルは、国内人口約650万人のところ、約250万人ものエルサルバドル人が米国などの海外で働いています。本国にいる家族への送金は、約59億ドル、同国のGDPの24.1%にあたる規模です。

しかし、エルサルバドルでは銀行口座を持っている人が人口の2~3割しかいないため、銀行の海外送金を使うことができません。そのため、銀行以外の送金業者を使わざるを得ず、送金手数料として、送金金額の10%以上も支払わなくてはならないという事情があります。 一方、ビットコインはスマホがあれば送金・着金が可能であり、人口の8割がスマホを持っていることからも、国内での送金・国際送金ともに、不自由なくできることになります。

というような、明るい未来が訪れてきそうです。

大義名分の裏には、付随的効果、意図的な付随効果(=真の目的)があるもの

何らかの制度変更が行われる場合、表向きの目的(大義名分)の影に隠れて、真の目的があることは少なくありません。

例えば、大学入試では一般入試で入学する学生が最近はどんどん少なくなり、推薦で入学する学生が増えていますが、表向きは、「一発勝負のペーパー入試では測れない、多様な能力やバックグラウンドの学生を採る」などと言われています。しかし、学生を早めに確保したい大学の経営上の理由だったり、OB会や政治家の関係で入学させない訳にはいかない人を確実に合格させることが真の目的だったりする訳です。

途上国や社会主義国の富裕層の悩みとは?

では、ビットコインを「通貨」とすることの、付随的効果、あるいは、「真の目的」は何かと言うと、富裕層が国境を越える財産の移動を容易にすることだろうと思っています。

日本はまだまだ格差が小さい社会なので、日本人の意識では、「日本人の所得・資産の水準は高くてこれくらい、中国人の所得・資産の水準は中くらいでこれくらい、フィリピン人の所得・資産の水準は低くてこれくらい。」というように、国ごとに所得・資産の水準は異なる、一国のなかでは所得・資産の水準はだいたい同じというイメージがあります。

しかし、中国人も、フィリピン人も、一国の中での所得・資産の水準が非常に幅広い訳です。これらの国の富裕層となると、日本国内の普通の富裕層の水準をはるかに上回る人達も少なくありません。

途上国や社会主義国の富裕層にとっては、資産の国外持ち出しが難しいというのが、いろいろネックになるのです。日本でもよく知られているところでは、中国人富裕層が日本の不動産を買おうとして、お金は中国に持っているらしいのだが日本に送金できず決済できなくて困っているという話がありますね。

そうした悩みの根幹にあるのは、外為規制です。途上国や社会主義国では、外為規制が厳しいことが多く、海外送金が難しい、銀行が送金を許してくれないのです。

このように、資産を持っていても国境を越えて移動させるのが難しいというのが、途上国や社会主義国富裕層の悩みだった訳ですが、暗号資産は銀行やSWIFTという中央集権的なシステムを使わないので、易々と国境を越えることができるのです。

暗号資産の「許容」にとどまらず、「法定通貨化」までしたのは、何故?

ここまで聞くと、「ビットコインなど暗号資産の持つ威力は分かった、でも、法定通貨化する必要は無かったのでは?」と疑問を投げかけてくる読者もいらっしゃるかも知れません。

その指摘はまさしくその通りだと思います。

ただ、エルサルバドルでビットコインが法定通貨化された2021年時点で、生活のすべてを暗号資産で完結していた人はいないと思うのです。とくに、国によっては(例えば、私の会社でマイニング事業をしているロシアなどでは)、法令によって、ロシア人・企業の間での決済は法定通貨のルーブルの使用を強制されているので、生活上の決済をすべて暗号資産で完結させるということは、法令上不可能なのです。

ですから、法定通貨を暗号資産に替えたい、また逆に、暗号資産を法定通貨に替えたいという需要はあります。

「であれば、暗号資産取引所で交換すればいいじゃない。」という声が聞こえてきそうですが、なかなか難しいところがあります。

たとえば香港では暗号資産の取引は禁止されていないのですが、実際には、暗号資産取引所から送金されてきたりすると、銀行口座が凍結されてしまったりすることが多く、実際には、法定通貨と暗号資産との間の交換は、それほど簡単ではないという事情があります。

そうした国の富裕層が、資産をエルサルバドルに送れば、完全に合法的に、法定通貨を暗号資産に替えることができる、逆に、暗号資産を法定通貨に替えることもできる訳です。

この辺り、私自身、エルサルバドルに実際に行ったことがなく、銀行口座開設にトライしたこともないので、確かなことは言えないのですが、現地在住でない外国人であっても銀行口座開設が簡単にできるのであれば、エルサルバドルを拠点に、法定通貨と暗号資産との間の交換を簡単にできるということになりそうです。

エルサルバドルは、ビットコインの法定通貨化により、世界のマネーロンダリングの拠点に?

暗号資産が、銀行のような中央集権的で政府の管理を受ける機関を通じなくても送金できるということは、プラス面だけでなくマイナス面もあり、マネーロンダリングの温床にもなりやすいということになります。

そして、アングラマネーを集めやすい暗号資産を、エルサルバドルであれば法定通貨の世界に持ち出すことが容易となると、エルサルバドルがマネーロンダリングの拠点になりかねない、という批判もされてくる訳です。

2022年1月25日、IMFは、エルサルバドルに対し、金融の安定を損なうなどとして、ビットコインを法定通貨から外すよう勧告しました。

IMFの勧告は善意から?

IMFがこの勧告をした2022年1月25日時点で、ビットコインの価格は、前年11月から約半分にまで落ち込んでいた訳で、エルサルバドル国民の利益を考えた温かい勧告と思えます。

ですが、軍事力だけでなく(軍事力以上に)米ドルを通じて世界を支配してきた米国政府、その息のかかったIMFにしてみれば、米ドルを通じた世界支配を脅かしかねないビットコインの法定通貨化など許しがたい訳で、このIMFの勧告も、そうハートウォーミングには受け取れないのです。

このように、エルサルバドルによるビットコインの法定通貨化も、これを止めるよう勧告したIMFも、大義名分もあれば裏の目的もあるのではないかと思われますし、それこそが歴史のダイナミズムなのでしょう。

そして、われわれは、「通貨」という生活の基盤がこれほどまでにダイナミックに動く面白い動乱の時代に生まれたことに感謝したいところです。

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