2015/11/11
外国人・外資系企業による日本国内の不動産購入が加速しています。2015年10月20日の日本経済新聞によると、外資系企業による日本の不動産の取得総額は、今年1月~9月で前年同期比41%増の7065億円に達しています。
中国国内の不動産投資に対するリターンも以前ほど大きくなくなってきたことや、中国経済の先行きの見通しが必ずしも明るくない中、中国系投資家の日本の不動産に対する投資意欲も非常に強いと言われます。
ただ、中国系不動産投資家との不動産売却交渉でどのような点でトラブルが生じやすいのか、どういう物件が興味を持ってもらいやすいのか、あまり知られていません。
そこで、OWL Investmentsでは、東京都港区の不動産を所有する会社を中国人投資家に売却した事案(2015年5月契約締結)の概略について、インタビューしてみました。(下の写真は、あくまで参考用イメージ画像です。)
藤間:売買契約の締結、途中でいろいろ大変だったと思います。お疲れ様でした。まず、どういう不動産なのか教えて頂けますでしょうか?
阿部:東京都港区の商業ビルです。土地30坪、5階建ての鉄筋コンクリートビルで、1階にアパレルショップ、2階から5階にオフィスが入居しています。築10年ですね。すべてテナントが入っています。
藤間:非常に良い物件のようですね。日本人・日本企業でも購入者を見つけることはできたでしょうし、外国人との交渉の面倒を考えれば、日本人・日本企業に売るという選択肢もあったと思います。なぜ、中国人投資家に売るという選択肢を選んだのでしょうか?
阿部:本件不動産オーナーが、中国人を中心にした外国の投資家が日本の不動産を高値で購入しているというニュースを耳にしていて、中華圏の投資家であれば日本人・日本企業に売るより高値で売れるのではないかと期待した、というのが第一の理由です。実際に、中国の投資家は、日本国内の投資家の観点とは異なる観点で不動産の評価をすることがあり、日本国内の投資家よりも高い評価をすることがあります。
また、不動産を売却しようとすると、買ってくれそうな人・会社を幾つか当たる訳ですが、秘密にしようとしても、売却の噂が流れる危険があります。本件の不動産オーナーはビル経営を長年してきた地元の名士なので、不動産売却の噂が地元に流れるのを避けたかったので、まずは高値で売れる可能性があり、国内に情報が還流しない範囲で売れるのであれば売ってみよう、というような目算がありました。
藤間:実際、日本人・日本企業相手より高値で売れました?
阿部:相場だと坪5000万円、15億円位の値段になったと思いますが、結果的に約20億円で売れたので、オーナーのもくろみ通りになりました。
藤間:高く購入してくれる投資家を探すために、どういう投資家に声をかけたのでしょうか?
阿部:オーナーの希望売却価格にできる限り高い価格で契約をまとめたいのは当然です。そのためには、少しでも多くの潜在購入者に声をかけた方が良いかも知れません。でも、それには労力も時間もかかりますし、不必要に多くの潜在購入者に声をかけると、売却の話が広まる危険もあります。そこで、オーナーから売却相手を探す依頼を受けた昨年(2014年)10月から12月にかけて、本物件に興味を持つ可能性が高く、高値で購入してくれる可能性の高い幾つかの潜在購入者に声をかけました。香港をベースにする機関投資家、中国本土の個人富裕層や企業、さらに欧州で活動するファイナンシャル・アドバイザー(FA)を介して欧州企業にも声をかけました。
藤間:声をかけた感触はどうでしたか?
阿部:かなり強気の20億円という価格を提示したところ、実際の購入者となる上海の企業だけは、この提示額に乗ってきました。強気で言ってみるものですね(笑)
藤間:強気の価格提示に乗ってきたのはどういう投資家ですか?
阿部:上海で不動産投資を行っている企業です。私がこれまで不動産案件を扱う中で知り合った会社です。
藤間:その投資家は、なぜ東京の不動産への投資に興味を持ったのでしょうか?
阿部:前述のとおり本件投資家は上海で不動産投資を行ってきたのですが、中国本土での不動産投資のリターンが下がってきているのです。そのため、東京の不動産に割安感を感じるようになったようです。また、この投資家本人が非常に日本好きで、ビジネスでもプライベートでも東京によく来ていますし、冬には毎年家族で北海道にスキーに行っています。そうした日本好きというのも理由のひとつでしょうね。
この不動産物件の場所を紹介した時に、この上海の投資家は、買い物で何度も行ったことがある場所であり、かつ、準一等地でもあったことから、すぐに中国人投資家のものさしである「延べ床面積1平米あたり人民元単価」を弾き出し、上海との価格を比較して「これならそこまで高くない」という判断をしたようです。
藤間:中国人投資家との交渉は非常に骨が折れるという印象がありますが、いかがでしたか?
阿部:今年(2015年)1月に交渉を開始して、本契約締結が5月ですから、たしかに楽ではありませんでした。3月に覚書を交わして本契約の交渉に入りましたが、金額交渉が細かいんですね。互いに1億円ずつ歩み寄れば金額をまとめられるかなという時点で、0.2億円単位の交渉をしてきたりとか。
藤間:日本人も中国人もアジア人ですけれども、ビジネス上の感覚は相当違うということですね。契約書の作り方もやはり違いますか?
阿部:そうですね。日本人は、様々なトラブルが生じた場合にどうするか?等の細かい条文はあまり入れない、そういう規定を最初から話し合うと契約が決裂してしまうんじゃないかと、考えるところがあります。でも、中国人は、細かいポイントも一つ一つ話し合って契約書に入れていこうとしますね。
藤間:クロスボーダーの契約となると、何語で契約書を書くのかというのもポイントですが、どうでした?
阿部:日本語の契約書と中国語の契約書を作り、日本語の契約書が正文、中国語の契約書が参考訳でした(編集部注:両言語の契約書を同一内容となるように作るものの、万一ズレがあった場合には、日本語契約書の内容を優先させるということです)。(下の写真は、あくまで参考用イメージ画像です。)
藤間:本件不動産を購入したストラクチャーはどうだったのですか?
阿部:本件不動産を所有している会社(日本法人)の株式を譲渡しました。中国では、株式譲渡には面倒な手続が必要なのに対し、日本の会社の株式を譲り受ける手続が簡単すぎて、かえって不安がられてしまいました。
藤間:日本は株主が登記事項ではないですからね。こうした制度の国ごとの違いというのは説明してあげる必要がありますね。株式移転以外では、どのような制度を説明しましたか?
阿部:賃貸借に関する制度、都市計画に関する制度、税制(とくに法人所得税)、会計制度などですね。
藤間:最後になりますが、こういう物件は中国人投資家が買いたくなるというポイントを教えてくれますか?
阿部:良い場所か否かが一番重要でしょう。「良い場所」という点では日本人投資家も同じなので、中国人投資家が何をもって「良い場所」と感じるかというと、中国人から見た知名度がまず重要です。例えば、銀座、六本木、新宿などという、多くの中国人も知っている地名だと良いですね。今回は先ほども申し上げたとおり、投資家がよく買い物に行く場所であった、ということが大きなポイントでした。
藤間:では、同じエリア(例えば新宿)の中で、どういう物件により興味を持つのでしょうか?
阿部:これは中国人投資家に限らないでしょうが、隣地と合わせることで増築が可能になるなど、ポテンシャルの高い物件は興味を持ってもらいやすいですね。あと、中国人は「一点豪華主義」なので、夜景がきれいとか、桜がきれいとか、富士山が見えるとか、友人に説明しやすい(自慢しやすい)ような、分かりやすい売りがあると興味を持ってもらいやすいですね。友人にも物件見学に来てもらって、友人が「これはいい」と言った物件のポイントは高くなる、ということがあったりします。
藤間:住宅の場合はどうでしょう?
阿部:日本人にはよく知られている高級住宅地、例えば、松濤とか目白と言っても、中国人は意外と知らないんですね。日本人もニューヨークのブロードウェイや5番街を知っていても、郊外の高級住宅地は知らない訳で、同じことです。少し都心から外れた高級住宅地は少し売りにくいかもしれません。逆に、新宿、渋谷、池袋といった「住宅」としては必ずしも環境がよくない場所でも、特徴のある物件であれば、興味を示すかもしれません。また、六本木、銀座から電車で何分という説明をすれば理解してもらいやすいと言えるでしょうね。(下の写真は、あくまで参考用イメージ画像です。)
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