2016/07/22
先日の記事で、法人税率が16.5%と低い香港に法人を設立して節税を図ったつもりが、外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)が適用され、タックスメリットを受けられず、法人設立のコストの分がむしろコスト増になってしまうという話を書きました。
今日は、実際に摘発された事例を説明したいと思います。
ネット上では、産経新聞の2016年3月22日の記事が詳しいので引用してみましょう。
「業務スーパー」をフランチャイズ展開する神戸物産(兵庫県稲美町、東証1部)が大阪国税局の税務調査で、平成26年10月期までの3年間に約2億8千万円の所得隠しを指摘されたことが21日、分かった。他に申告漏れもあり、追徴税額は重加算税などを含め約1億6千万円とみられる。
関係者によると、同社は香港の子会社について、現地で事業の実体があることなどから、法人税率の低い外国で子会社の所得を申告することを防ぐ「外国子会社合算税制」の適用除外を受けられるとして子会社の所得を合算せず申告した。
しかし、国税局は「子会社に役員が常駐していない」などの理由で除外の要件を満たしていないと判断。合算せずに申告したことが、仮装・隠蔽(いんぺい)を伴う所得隠しと認定されたもようだ。神戸物産の27年10月期の売上高は2285億円(連結)。
同社をめぐっては、自社株買いの方針を公表する前に内部関係者が取引先などに知らせ、インサイダー取引が行われた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が昨年から金融商品取引法違反の疑いで調査している。
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の適用要件については、前回の記事で書きました。
1. 日本法人または日本居住者により、発行済株式総数の50%超を直接または間接に保有されている外国法人(これを「外国関係会社」と言います)であること。
2. 「外国関係会社」の租税負担割合が20%未満であること。(これを「特定外国子会社等」といいます。)
3. 対象となっている日本法人または日本居住者が「特定外国子会社等」の株式を10%以上保有していること。
神戸物産の香港子会社は、①日本法人が100%株式を保有していますし、②香港という法人税率が20%未満の国・地域にありますし、③神戸物産が100%保有していますので、この要件を満たします。
上記のタックスヘイブン対策税制の要件を満たすだけで直ちに適用されてしまうと、日本企業の香港子会社は、香港の低税率のメリットを常に受けられないということになりかねません。
そこで、法は適用除外要件を定め、一定の要件を満たした場合には、タックスヘイブン対策税制の適用を免れることとしています。
このタックスヘイブン対策の適用除外基準は、①事業基準、②実体基準、③管理支配基準、④所在地国基準、⑤非関連者基準と呼ばれ、これらを満たした場合には、タックスヘイブン対策税制の適用を免れることになります。
また、適用除外基準とは別に、持株統括会社などが例外として定められ、この例外に該当する場合も、タックスヘイブン対策税制の適用を免れることになります。
上記産経新聞の記事の中に、「同社は香港の子会社について、現地で事業の実体があることなどから、法人税率の低い外国で子会社の所得を申告することを防ぐ「外国子会社合算税制」の適用除外を受けられるとして子会社の所得を合算せず申告した。しかし、国税局は「子会社に役員が常駐していない」などの理由で除外の要件を満たしていないと判断。」とあります。
したがって、上記の適用除外基準・例外のうち、②実体基準(本店所在地において、その主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定的施設を有すること)に当たるか否かについて、また、③管理支配基準(本店所在地において、その事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)について争われたものと推察できます。
まず、「主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定的施設」を備えていたのでしょうか?
神戸物産(親会社)は東証一部上場企業ですので、有価証券報告書が開示されています。この有価証券報告書には連結子会社の状況が記載されていますので、見てみましょう。
平成28(2016)年1月29日提出の有価証券報告書の8頁には、神戸物産(香港)有限公司は、「東南アジア等での当社商品開発拠点」と記載されています。
神戸物産は自社スーパーマーケットでオリジナル商品を販売していますが、そのオリジナル商品を東南アジアで開発するにあたって指示をする拠点ということでしょうか。日本で販売する商品を東南アジア等で開発するにあたって何故香港拠点が必要なのかよく分かりませんが、そういう趣旨のようです。
上記の「主たる事業」を営むには店舗や工場は要らないでしょう。事務所があれば良さそうです。
では、神戸物産香港子会社の事務所はどこにあったのでしょうか?
香港法人は、Annual return(年次報告書)を毎年登記所に提出する必要があり、誰でも閲覧することができます。そこで、私も、神戸物産香港子会社のAnnual return(年次報告書)を見てみました。
なるほど、尖沙咀(Tsim Sha Tsui)のかなり有名なビルがRegistered office(登記オフィス)となっています。行ってみましょう。
オフィス入口には入居している会社の表示がアルファベット順に記載されています。「Kobe」は、と見ても、何故かありません。。
とはいえ、部屋番号までAnnual return(年次報告書)で確認済みですので、エレベーターで上がってみました。
エレベーターを降りると、そのフロアの入居企業一覧があります。しかし、何故か、その部屋番号だけ飛んでいて、記載がありません。
まさか、実際には存在しない部屋?開かずの間?などと想像しましたが、きちんとその部屋はありました。その意味では、事務所の実体はあったと言えそうです。(もっとも、部屋の中をうかがうことは出来ませんでしたので、事務所の実体を本当に備えていたのかは不明です。)
神戸物産香港子会社の管理支配の状況はどうだったのでしょうか?
登記所に毎年提出され誰でも閲覧できるAnnual return(年次報告書)には取締役の氏名と取締役の住所が記載されています。そして、神戸物産香港子会社の場合、取締役は2名いましたが、2人とも住所が兵庫県となっていました。つまり、香港子会社には常駐の取締役がいないことが明確に記載されていた訳です。
「国税局は「子会社に役員が常駐していない」などの理由で除外の要件を満たしていないと判断。」という新聞記事の記載からは、この点が国税庁の判断の決め手だったと思われます。
香港子会社を有している日本企業が香港子会社の所得について申告していないケースは、神戸物産だけでは無いと思います。むしろ、申告していないケースの方が多いでしょう。
問題は、何故、神戸物産がやり玉に挙げられたのかという点です。上で引用した新聞記事の末尾に「自社株買いの方針を公表する前に内部関係者が取引先などに知らせ、インサイダー取引が行われた疑いがあるとして、証券取引等監視委員会が昨年から金融商品取引法違反の疑いで調査している」とあります。おそらく、この違反を調査している中で、所得隠しが発覚したのかと推測します。
では、別件で違反の調査が行われていない会社の場合は大丈夫なのか、という疑問が生じるでしょう。
あくまで推測ですが、2018年以降、金融口座の自動情報交換が開始されてからは、日本の国税庁は全ての情報を把握し、いつでも摘発できる体制になるのだろうと思います。
OWL Investmentsは、香港で既に会社設立をした方が、2018年の自動的情報交換に向けてどう対策をすべきかを一緒に考えていきます。
問い合わせ用メールアドレス:info@owl-investments.com
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