2024/11/12
地球上には190カ国以上の国があり、地域まで入れると軽く200を超えますが、当然ながら税制は世界統一ではなく、税率も国や地域ごとにバラバラです。
そんななか、明らかに税率が他より低い国・地域があります。そうした国や地域を一般に「タックスヘイブン(=軽税率国・地域)」と呼びます。
「タックスヘイブン」という名前は聞くことがあっても、具体的な使い方を聞くことはなかなか無いでしょう。
「金融ハブ型」と「島嶼(とうしょ)型」のタックスヘイブン
タックスヘイブンは、大きく「金融ハブ型」と「島嶼(とうしょ)型」の2つに分類できます。
金融ハブ型の代表は、アジアの香港とシンガポール、ヨーロッパのリヒテンシュタインなどです。これらは、狭いとはいえ、ある程度の国土と人口があり、金融、観光、貿易などの産業が盛んです。これらの国・地域では、一般的に、域内で得た所得に対して課税されますが、その税率は極めて低く設定されています。そして、金融所得(配当などのインカムゲイン、売却益のキャピタルゲイン)には課税されません。しかも、域外で得た所得に対しても課税がありません。
一方、島嶼型の代表は、カリブ海にあるケイマン諸島や英領バージン諸島などのイギリス領です。これらは、国土が極めて狭く、人口も極めて少ないため、産業らしい産業がありません。タックスヘイブンだからこそ成り立つ会計事務所、法律事務所くらいです。また、そもそも税金が存在しない国・地域もあります。
(カリブ海に浮かぶ、ケイマン諸島、英領バージン諸島)
タックスヘイブンに住めば、日本人も低税率のメリットを得られるが、実際に住むのは楽ではない?
そして、日本は、海外に移住して〈日本非居住〉になれば、日本の税金を払う義務はほぼ無くなりますから(残念ながら、日本の相続税・贈与税を回避するには、非常に高いハードルがあります)、こうしたタックスヘイブンに移住してしまえば、タックスヘイブンの税制の恩恵を受けることができるのです。
タックスヘイブンに移住すればタックスヘイブンの税制の恩恵を受けることができると述べましたが、ケイマン諸島や英領バージン諸島への移住は現実的とはいえません。
一方、金融ハブ型タックスヘイブンの香港、シンガポールへの移住をしている日本人は少なくありませんが、香港・シンガポールは狭く、物価も高いので嫌いだという方もいらっしゃるでしょう。
人ではないけれども法律上は「人」と同じように扱われるのが「法人」
そこで「法人」の出番です。法人というのは、本来は「人」ではないけれども、法律上は「人」として扱う存在です。株式会社がその代表です。
たとえば、筆者(小峰)がトヨタ自動車株式会社の株主であるとして、法律上、筆者とトヨタ自動車株式会社は別の人格です。トヨタ自動車株式会社が仮に損害賠償支払義務を負っているとしても、筆者が損害賠償支払義務を負うわけではありません。
「それは超少数株主だからだ」といわれそうですが、創業家出身で社長の豊田氏であっても、トヨタ自動車株式会社とは法律上は別の人格です。さらにいうと、筆者が株式の100%を持つ会社「コミネ株式会社」を作ったとしても、私と「コミネ株式会社」は、法律上、別の人格となります。
つまり、私は日本に居住していても、「コミネ株式会社」は別の国・地域に存在して、その国・地域の法律が適用されるということも起こります。
タックスヘイブンにペーパーカンパニーを作ればよい?
ふつう、会社というと、オフィス・工場・店舗などがあって、多くの従業員が働いている組織を思い浮かべますが、そういう会社ばかりではありません。
タックスヘイブンには、「ペーパーカンパニー」と呼ばれる、法人設立の書類だけで、オフィスや人員などが存在しない会社もかなり一般的です。
では、日本の居住者が、タックスヘイブンに実体のないペーパーカンパニーを作って、そのペーパーカンパニーの名義でビジネスをしていけば、日本での課税対象からは外れるのでしょうか?
たとえば、日本でYoutuberをしているインフルエンサーが、企業案件(企業から報酬を受けて商品の宣伝をすること)を受ける場合、インフルエンサーが個人として受注したり、インフルエンサーが持っている日本法人で受注すると、日本の税金がかかります。しかし、その日本法人が香港に子会社を持っていて、その香港法人で受注したら、香港の低い税率で納税すれば済むのでしょうか?
しかし、タックスヘイブンにペーパーカンパニーを設立して、日本の税金を免れる行為を許していたら、日本に税金が入らなくなってしまいます。そこで、こうした租税回避行為を防ぐため、「タックスヘイブン対策税制」というものが設けられています。
具体的には、こうしたペーパーカンパニーの所得は、その株主の所得に合算され、日本で追加的に課税されるのです。
図表1の左側を見てください。日本居住のオーナーが持っている香港法人は、香港で飲食店を営んでいます。このように実体のある香港法人が得た所得は、香港の法人税が課されるのみです。しかし右側は、日本居住のYouTuberが、収益にかかる税金を抑えるため、実体の無い香港法人で報酬を受領しています。
このように、香港法人が実体のないペーパーカンパニーの場合、香港法人の所得はその株主の所得に合算され、日本で追加の納税を求められます。これがタックスヘイブン対策税制です。
タイやマレーシアへの居住+タックスヘイブン利用で「節税策」が実現
タックスヘイブン対策税制は、グローバルには「CFC(Controlled Foreign Company)税制」と呼ばれ、多くの先進国で導入されています。
「多くの先進国では」と述べたように、途上国ではCFC税制が導入されていない国も少なくありません。たとえば、日本人の移住先として人気のあるタイ、マレーシアでは、CFC税制が導入されていません。
そのため、タイやマレーシアの居住者が、海外のタックスヘイブンに法人を作り、その低税率を利用するという方法は、ある意味「やりたい放題」です。
タックスヘイブンにある海外の法人でも、いわゆる「PE」(恒久的施設)がタイ、マレーシアにある場合には、タイ、マレーシアで課税されますので、税負担がないわけではありませんが、日本などの先進国から見れば、圧倒的に「やりたい放題」なのです。
富裕層の海外移住をサポートしてきた筆者の肌感覚ではありますが、香港、シンガポールなどで法人を作り、海外で得る所得を国内に持ち込まず、国内で納税しない方策を取っているタイ、マレーシア在住の富裕層は、かなりの数にのぼるように思います。
ここではこの方策の是非は論じませんが、私たち外国人も、タイ、マレーシアの居住者になったなら、タイ、マレーシアの富裕層の方策を真似すればいいと考えています。
居住先による節税の可能性についてまとめると、以下のようになります。
①日本などの先進国居住者
⇒海外のタックスヘイブンに法人を設立しても、節税することがむずかしい
②香港・シンガポールの居住者
⇒自分の住んでいる国・地域に法人を設立することで、低税率を利用できる
③タイ・マレーシアの居住者
⇒海外のタックスヘイブンに法人を設立することで、低税率を利用できる