2015/11/05
日本でも香港でも、銀行口座を開く際、「アメリカ国籍をお持ちですか?」と聞かれることがあるかも知れません。
これは、外国の銀行、証券会社、保険会社などの金融機関に対し、米国人が保有する口座の資産や取引の詳細な記録を米国内国歳入庁(IRS)に報告するよう義務付けているForeign Account Tax Compliance Act(”FATCA”、外国口座税務コンプライアンス法、2010年施行)の影響なのです。
この法律は、スイス系国際金融機関UBSの行員が米富裕層顧客の海外資産移転や租税回避を幇助していた疑惑が発覚したことなどを受けて策定されたもので、税金の取り逃しを防止する趣旨です。
FATCAの規定により、外国の銀行、証券会社、保険会社などの金融機関は、米国人が保有する口座の資産や取引の詳細な記録を米国内国歳入庁(IRS)に報告するよう義務付けられています。
当然ですけれども、FATCAにより義務が課され、外国の金融機関にとっての負担は大きい訳です。
全国銀行協会が米国課税当局に提出した意見書によると、日本の全人口約1億2800万人に対して米国籍保有者は約5万2000人であり、0.04%に過ぎません。しかし、その0.04%の米国籍保有者による口座を特定し報告するために、日本の銀行にある預金口座数は約8億全体を確認・精査しなくてはならないのです。
こうした過度な規制のために、「米国人は面倒くさい」という風潮が生まれてきているのも事実です。
例えば、金融機関の中には米国籍保有者はお断りというところもあるようです(日本の場合、メガバンク・地方銀行は米国籍保有者も受け入れていますが、一部の信用金庫は断っているという話を聞きます)し、グローバル企業の米国外オフィスで昇進しようとするなら米国籍を放棄せよという例もあるようです。
FATCAは、ごく一部の超富裕層の脱税防止を目的に制定されたのですが、結果として、一般のビジネスパーソンを苦しめているのです。
その結果何が生じたかというと、米国籍を放棄する人の数の増大です。米財務省の発表によると、2015年7月から9月までの3カ月間に四半期として過去最高の1426人がパスポートを返上しています。このペースでいけば、年間の返上数は過去最高だった昨年の3415人を大幅に上回るのは確実です。
さて、ひるがえって日本。
日本の場合、現時点では、日本非居住の日本国籍保有者に対して、米国ほどの過度な規制は設けられていません。しかし、国外財産調書制度に見られるように、徐々に規制が強まってきているのを感じます。
英語堪能でグローバルビジネスにおいて競争力が非常に高い米国人ビジネスパーソンでさえ、FATCAの影響で他国籍人との関係上競争力を失いつつあるのです。
ましてや、英語ができない日本人に対して、FATCAのような厳しい規制が適用されたら、日本人はグローバルなビジネスシーンから完全消滅でしょうね。
富裕層の租税回避を防止したいという趣旨は分かるのですが、結果的に多数のビジネスパーソンの国際競争力を損なうような規制は止めて欲しい、そう思うのです。