2016/05/11
画像解析技術をもとにマーケティングサービスを提供するスタートアップ(ベンチャー企業)のBrand Pitは、本拠地を置く場所として香港を選びました。
同社の共同創業者の一人山浦真由子さんに、前回はBrand Pitのサービス・どうして同社が香港を選んだのかを聞きましたが、今回は香港のスタートアップ事情を聞いてみました。
梅園:香港でビジネスをする際、一番ネックになりやすいのは、不動産(家賃)が高いことです。スタートアップの場合、家賃にお金をかけにくいと思いますが、解決策はありますか?
山浦:東京でもスタートアップ向けのコワーキングスペースが数多くありますが、同じようなコワーキングスペースが香港にもあります。
鰂魚涌(Quarry Bay)にあるBlue Printは、Swire Groupが自社物件を貸し出していて、Brand Pitも以前入居していました。1人で1か月あたりの使用料が2000香港ドルと比較的安いです。外国人(非香港人)が多い印象ですね
堅尼地城(Kennedy Town)にあるHiveも外国人(非香港人)が多い印象ですね。ここは、部屋を借りることもできます。
もう少し香港人が多い印象なのは、天后にあるCocoonと、上環(Sheung Wan)にあるPaperclipですね。この両者は、コワーキングスペースの第一世代と言ってもいいと思います。
(Cocoonでのピッチイベント)
梅園:コワーキングスペースでは、スタートアップ同士の交流も盛んですか?
山浦:そうですね、広いスペースを皆で使っているので、交流しやすい環境ですし、運営者主催で各社のビジネスモデルの発表イベントやメンタークリニックなどもよく開催されています。ですから、交流は盛んだと思います。
梅園:コワーキングスペースの中や発表会で見ていて、香港のスタートアップの特徴はありますか?
山浦:香港のスタートアップは、外国人が立ち上げたものと香港人の立ち上げたものに二分されている印象です。いま、「外国人が立ち上げたもの」と言いましたが、この「外国人」は、ヨーロッパ人(とくにフランス人)、あと、欧米に子供時代から住んでいた香港人も含めています。
梅園:外国人の立ち上げたスタートアップと香港人の立ち上げたスタートアップで、ビジネスのやり方は違いますか?
山浦:両社ともウェブ関係のビジネスが多いですし、ビジネスモデルだけ取り上げると、大きく違う訳ではありません。でも、香港人の立ち上げたスタートアップは香港市場を狙っているのに対して、外国人の立ち上げたスタートアップがグローバルな市場を最初から見据えている傾向にあります。
梅園:FacebookやAmazonが最初から世界を目指していたのに対し、mixiや楽天が日本市場をまず押さえようとした、というのに通じるところがありますね。しかし、日本の人口1億2000万人に対して、香港の人口700万人ですからね。
山浦:香港をテストマーケティングの場と捉えて、その後は他の先進国で勝負しよう、中国で勝負しようというのであれば、良いと思います(テストマーケティングの場所としては最高だと思います)。でも、香港にローカライズしすぎると、それ以外の場所で勝負しにくくなりますね。
(Paperclipでのゲストスピーカーイベント)
梅園:香港のスタートアップは、外国人が立ち上げたものと香港人の立ち上げたものに二分されているとのことですが、Brand Pitの立ち位置はどこになりますか?
山浦:Brand Pitは、ファウンダーが香港人と日本人という珍しい構成です。ただ、その二つのうちどちらかと言えば、「外国人が立ち上げたもの」に分類されるでしょうか。香港人ファウンダーのTT Chuは、シンガポールや日本でも仕事をしたことがあり、外国経験が豊富ですし、目指す方向性も香港市場だけを見ている訳ではありません。交流も、外国人が立ち上げたスタートアップとの方が多いですね。
梅園:山浦さんは日本人ファウンダーですが、香港のスタートアップの社会の中で、日本人は珍しいですか?
山浦:ある程度以上大きくなった会社が日本から香港に出てくることはあっても、アーリーステージに絞っていえば、日本人は他にいないと思います。覚えてもらいやすいので得していますね。
梅園:香港での資金調達はどうでしょうか?
山浦:Brand Pitがアーリーステージなので、アーリーステージにとっての資金調達がメインになってしまいますが、香港人富裕層のエンジェルインベスターはかなり多いと思います。500万円から数千万円くらいをポンと出す感じです。
梅園:彼ら香港人富裕層が投資するスタートアップに一定の傾向はありますか?
山浦:スタートアップへの投資であってもリターンが確実にどれくらい出るかにこだわる傾向があると思います。そして、リターンを確実に求めようとしますから、イーコマースやモバイルアプリなどの分かりやすいビジネスに投資する傾向があります。有体に言えば、アメリカなど香港の外で既に流行しているビジネスを香港版にしたビジネス、いわゆる「タイムマシンモデル」のビジネスですね。こういうビジネスモデルは、欧米では全然受けないんですけれども、香港の投資家には受けるんですよね。
梅園:スタートアップにとって、良い人材を探すことはとても重要だと思います。そして、インターネット関連ビジネスの場合、エンジニアの確保が重要だと思いますが、香港でのエンジニア確保はどうですか?
山浦:Brand Pitの場合、画像解析、人工知能の技術が重要なので、数学を学んできたエンジニアの確保が非常に重要です。香港の場合、英語にも中国語にも対応できるエンジニアを確保しやすいのは良いですね。
山浦:具体的には、香港大学、香港中文大学、香港理工大学などで勉強している学生にインターンで入ってもらい、互いに好印象であれば入ってもらうという流れで採用しています。これまでの経験上、香港人よりも、中国、マレーシア、韓国などからの留学生の方が、一生懸命に仕事をしてくれる印象がありますね。
(大学の世界ランキングでも上位に位置する、香港大学)
梅園:これまで、香港のスタートアップ事情をいろいろ聞いてきました。こうした香港の長所・短所を踏まえて、Brand Pitがなぜ香港を選んだのかを教えて頂けますか?
山浦:もちろん、共同創業者のTT Chuが香港出身というのは大きい理由です。でも、それ以上に、当社のビジネスの形からは香港が最高だと思ったことが大きいです。香港は、世界最大のブランド品マーケットである中国の玄関口であり、中国のマーケットリサーチをやり易い場所です。それに、コンパクトにまとまった都市の中に欧米の主要メーカー、大手広告会社のアジア太平洋オフィスが揃っています。また、中国本土と違ってインターネットビジネスを始めるうえでの厳しい法規制が無いという点も魅力的です。
山浦:東京でも、シリコンバレーでも、パリでもなく、香港こそが当社のビジネスモデルには最適だと思って香港で起業しました、と胸を張って言えますね。
梅園:有難うございました。世界に伸びていくビジネスを応援しています。
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