2015/06/18
2015年度税制改正において、個人が国外転出する時点でキャピタルゲインに対して課税する「国外転出時課税制度」(いわゆる出国税)が制定され、2015年7月1日から施行される。
自民党・公明党の税制大綱において2014年12月30日に発表されて以来、グローバルなタックスプランニングに携わる人たちの間で、大きな議論を巻き起こしている。
出国税を理解するためには、出国税施行前の税制を知る必要がある。
日本で株式を譲渡する場合、キャピタルゲインに対して所得税(15.315%)と住民税(5%)の課税がされる。一方、香港やシンガポールなどの国・地域では、キャピタルゲイン課税が存在しない。そして、日本人も、香港等に住所を移して「日本非居住者」になり、しかも、日本に事業を行う拠点(恒久的施設:PEという)がないならば、日本でキャピタルゲイン課税されずに済む。
そこで、株式を譲渡すると数億円~数十億円の納税をしなくてはならない人達の中には、香港等に移住して、キャピタルゲイン課税を免れる人達も数多く現れるようになってきた。
この現象を見逃せないと考えるようになった国税当局は、日本を脱出するだけでキャピタルゲイン課税を免れることができてしまうのは不公平ではないか、と主張し始めた。このキャピタルゲイン課税逃れの対策として制定されるのが出国税である。
日本非居住者になろうとする日本人富裕層の場合を念頭に、以下説明する。
出国税の適用対象者は、国外転出をしようとする者で、以下の二要件を満たす者である。
(1) 以下の対象資産の価額等の合計が1億円以上であること。
・国外転出時に保有する、所得税法に規定する有価証券、匿名組合出資持分の価額
・国外転出時に契約締結している、未決済のデリバティブ取引、信用取引、発行日取引の見做し決済損益の金額
(2) 国外転出の日前10年以内に、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年超であること。
これだけを見ると、一時的に海外赴任する人も対象となるが、そうした人達には、納税猶予制度、(納税後に返還を求めることができる)課税取り消し制度が設けられている。
つまり、海外赴任者は出国税のターゲットでなく、日本非居住者になろうとする日本居住の富裕層(1億円以上の有価証券等を保有する日本居住者)をターゲットにする税制ということである。